『もう一つの訳者前書き』 私がKerberosという言葉に触れたのは、1995年頃、SRAの石井達夫氏が主催 する、POSTGRES(バークレーで開発されたオブジェクトリレーショナルDBMS)に 関する日本語メーリング・リストのメンバーで行なわれた「postgres95 (PostgreSQL)ドキュメント日本語化プロジェクト」だった。そのころは、 まだ、何のことかさえわからず、普段使っていたX11ウィンドウシステム を開発したのと同じMITで開発されてた認証システムであること以外には なにも知らなかった。認証にパスワードでなくチケットを使うということ の意味がよく理解できないでいた。 その後、1997年初め、(株)ソフトウェア設計の松村宏一氏の依頼で、 Kerberosのネットワーク認証システムについての調査を行なった。この調査は Kerberos認証システムの文献調査に始まり、そのシステムを実際に使ったデー タ転送実験にまで発展し、当時ソースコードの入手が可能であったeBonesとい うKerberos第4版を主な調査の対象とした。結果的に、PCといくつかの大手ベ ンダーのワークステーションからなる、仮想オープン・システム上でのデモを 行なうことになったのであるが、当初はLinux上でeBonesを動かすためのデバッ グや、FreeBSD版とのバイトオーダーの違いなどで苦労していた。 そんなおり、日本シグナス・ソリューションズ社の伊藤紀彦氏に(米国Cygnus Solutions社の)製品版の導入について打診したが、米国の輸出規制のためそ れは叶わず、その代わりにJason Molenda氏よりKTH(ストックホルム王立研究 所)版Kerberos4 (KTH-KRB)を紹介して頂いた。その後は、このKTH版を使うこ とによりうまい具合にインストールが進み、無事に作業を終えることができた。 実験に際しては、Assar Westerlund氏に提供して頂いたWindows95用のクライア ントも利用できた。 本書の中でもKTH-KRBの紹介があるが、eBones版から機能が拡張された Kerberos4で、IPアドレスが固定でないダイアルアップ・クライアントからの アクセスにも使えるなど、実際に重宝している。筆者ののウェブページ 「Kerberos Notes for Japanese」(http://www.rccm.co.jp/~juk/krb/)には KTH-KRB4の文書の拙訳もあるので、KTH版Kerberos4の利用に興味のある方はこ ちらの方も参考にしてもらえると嬉しい。とはいえ、本書が対象としている Kerberos5は、基本概念ではKerberos4と同じであるし、また、本書では Kerberos4利用者のための説明にもページが割かれているので、Kerberos5のみ ならずKerberos4を利用する際にも役立つはずだ。 * * * 本書の翻訳は、様々な人々の助けを得て実現できた。まず、筆者のホームペー ジを見て、翻訳の仕事を任せて下さる気になったピアソンエデュケーション編 集者の江田直史氏、ならびに、そのホームページを作るきっかけとなる、 Kerberosとの出会いの機会を与えて下さった松村宏一氏、また、この翻訳作業 を引き受けることを許してくれた(株)計算力学研究センターの熊井規社長をは じめ、協力をしてくれた同僚の達に感謝したい。特に、松村宏一氏と同僚の濱 井祐治氏には翻訳原稿に何度も目を通して頂き、英語の読み間違いや勘違いを 指摘して頂くと供に、翻訳技術にについての貴重な助言を頂いた。また、かつ ての同僚であったクリフォード・オーリン氏にも小生が理解できない英語の言 い回しをわかりやすく解説してもらった。その他、インターネット上で沢山の 貴重な情報を提供してくれている多くの人達にも感謝したい。 最後に、Kerberosという素晴らしいソフトウェアを開発してくれた MIT Project AthenaのKerberos開発チーム、国際版の開発をしているKTHのKTH-KRB 開発チーム、そして、Kerberosの素晴らしい教科書を書いてくれたブライアン・ タン氏に感謝の意を表したい。余談になるが、娘の理沙には、地域振興券を使っ て、ギリシャ神話に関する数冊の文庫本を買わせてもらったことをここに陳謝 するとともに感謝の意を表したい。(一部の友人から地域振興券を飲み代に使っ てしまった、というようなことを耳にした人がいるかもしれないが、それは、 全くの誤解だ。) 桑村 潤